トキソプラズマ症 (人畜共通感染症)
トキソプラズマ症 (人畜共通感染症)
概要
トキソプラズマ症は、細胞内寄生性の顕微鏡でないと確認できないほど小さな病原性原虫で典型的な人畜共通感染症の一種です。特に妊婦に初感染をすると胎児は先天性トキソプラズマ症になる可能性が高く、また免疫不全患者の人は特別な注意が必要とされています。そのため時々女性の飼い主様やその家族の方などから相談があります。
この病気は、猫を終宿主として人をはじめ多くの哺乳類と鳥類に経口感染をする病気なので特性を理解して注意をすれば予防できる疾患です。
原因
この原虫は、発育時期によりオーシスト、タキゾイト、シストとよばれ、これらを経口的に摂取することにより感染します。
症状
成長した犬や猫が感染しても、免疫機能が正常であればほとんど症状を示さず経過するため、感染したことも分からない場合があります。
1、急性トキソプラズマ症
子猫にみられ、抗生物質に反応しない持続性の発熱、食欲不振、下痢、運動失調、痙攣、麻痺などの神経症状が現われ重症の場合は死亡する。しかし、このようなケースはきわめてまれであり、ほとんどの例では無症状でオーシストを散乱します。
2、慢性トキソプラズマ症
成犬,成猫が感染しても、免疫機能が正常であればほとんど症 状を示さず経過します。しかし、一部に慢性経過をたどり不明熱、
下痢、元気消失、抑うつ状態、流産、貧血、虹彩炎、中枢神経症状
を呈することがあります。
診断・検査
1、 特徴的な症状がないので、症状からの診断は困難です。
2、 下痢をしている子猫の検便をして、オーシストを確認することにより確定診断することができる。
3、 犬や猫の血液を採血して抗体価の測定をする。
4、 腹水、胸水を採取して、直接染色して顕微鏡で確認するか、マウスに接種して中体を確認する。
治療
サルファ剤、トリメトプリム、ピリメタミンなどを投与する。
治療、回復後は免疫を獲得するため再発症は起こらないが、原虫は生涯にわたって潜伏し続けるとの報告がある。
トキソプラズマ症の予防
特性を理解する
1、 終宿主の猫科動物だけが便中に未熟なオーシストを排泄する。
2、 猫科動物から排泄されたオーシストは直後には感染力がないが、外界で2~3日後に成熟して感染力をもつようになる。
3、 オーシストの排泄は1歳未満の子猫に多く認められ、期間は初感染後1~3週間ぐらいで免疫力などによりオーシストの増殖排泄は停止する。
4、 オーシストは67℃以上の加熱で死滅するが、自然環境や薬剤に対して
抵抗性が高く、屋外で1年以上も感染力を有し、塩素系消毒薬にも抵抗性を有する。
5、 排泄されたオーシストは感染後、中間宿主と終宿主の筋肉、眼、脳などでタキゾイトや被膜に包まれたシストを形成する。これらの肉を生食や未加熱の状態で経口摂取すると感染を引き起こす。
6、 シストはー20℃の凍結24時間、66℃以上の加熱、あるいは乾燥で死滅する。+4℃では2ヶ月間生存する。胃、十二指腸内では死滅しない。
猫の場合の予防
外猫や拾った子猫が下痢をした場合には検便や抗体検査をする。
室内飼育の徹底と生肉を与えない。狩りをさせない。
便はその都度処分をする。特に子猫の下痢便はゴム手袋などを使用する
ゴキブリ、ハエ、ネズミなどのいない衛生的な飼育環境を維持する。
犬の場合の予防
散歩時の拾い食いや生肉は与えないように注意する。
ゴキブリ、ハエ、ネズミなどのいない衛生的な飼育環境を維持する。
人の場合の予防
トキソプラズマは全人類の10~25%が感染していると言う報告があります。主な原因は食事の肉からの感染(生肉、レアステーキ等)やその他、公園の砂場、土いじり、井戸水の摂取、水洗いの不十分の野菜・果物の摂取、猫の飼育などがリスクとなります。
世界的にトキソプラズマの感染率は高いが、犬や猫と同じように人でも感染した場合は免疫力があって発病することは少なく、ほとんど不顕性感染で気づかず経過すると言われています。
しかし、妊婦の初感染や免疫不全患者では十分な注意が必要とされています。